【鹿角抄】「生きがい」を持つ大切さ実感、視覚障害者のお年寄り劇団にエール
高取町の盲養護老人ホーム「慈母園」で目の不自由なお年寄りが劇団「愛園座」を立ち上げた。視覚障害者らからなる劇団は全国でも珍しい。熱演が話題になっていると聞き、先日取材に伺った。
台本が読めない、アイコンタクトができない、舞台上でぶつかってしまう…。視覚障害者がステージで劇を行うには、さまざまな課題がある。一体、どうやって乗り越えたのだろうか。取材するうちに、地道な努力はもちろん、劇へ打ち込むメンバーや職員それぞれの強い思いが原動力となっていると感じた。
ぶつからないように職員が「黒子」として誘導してはいるものの、身ぶり手ぶりを交えたり、首をすくめたりと、役に合わせた動作は自然で板に付いている。メンバーに聞くと、せりふが吹き込まれたテープを繰り返し聞いて、情景や成功している場面をイメージして演じているのだという。発声練習は特にしていないというが、大きなよく通る声で演じていた。
「お客さんの反応が気になる。本番までどきどきです」。こう話すのは施設長の喜多忍さんだ。施設には県内だけでなく、大阪など県外からくる身寄りのないお年寄りも多い。「不幸な事情を抱える人もいる。希望をなくしてしまったお年寄りの心に、光を灯したい。そして元気を与えたい」。喜多さんの思いは、生き生きと演じる劇団のメンバーにも届いている。
メンバーの男性(80)は「愛園座の公演を成功させて、日本一にしたい。もっと多くの人に知ってほしい」と充実感に満ちた表情で話してくれた。高齢者をめぐる暗い話題が多い中、明るい気持ちになれたと同時に「生きがい」を持って毎日を過ごす大切さ、すばらしさを実感した。
メンバーと職員が一丸となって作り上げる「愛園座」の公演は12月5日午後2時から高取町リベルテホールで行われる。披露する演目は落語で親しまれている「転失気(てんしき)」。ユーモラスな話で笑いと元気を届ける。(有川真理)
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