【あの町こんな店】ほっと一息癒やしの空間 「ミジンコブンコ」(奈良市)
近鉄奈良駅の北側に広がる「奈良きたまち」エリア。昔ながらの建物が並ぶ静かなまちの一角に、木造平屋建てのブックカフェ「ミジンコブンコ」がある。2年前にオープン以来、多彩なジャンルの本に加え、スパイスたっぷりのカレーが味わえる店として口コミで人気が上昇。店内には、慌ただしい日常を忘れてほっと一息つける癒やしの空間が広がっている。
■気持ちのいい空間
「お母さん、絵本読んで」。店の扉を開けると、幼稚園児ぐらいの男の子の声が聞こえてきた。奥の座敷で子連れの母親2人が、腰を下ろして子供に読み聞かせをしていた。
6畳ずつの土間と座敷が一続きの店内は、小ぢんまりとした外観からは想像がつかない広々とした空間だ。壁側のカウンター席や中央のテーブルには、店内で自由に読むことができる文庫本や絵本、建築関係の専門書など、多彩なジャンルの本が800冊以上並ぶ。
本は店主の人見修司さん(36)が蔵書の中から、「店の雰囲気に合うものを選んだ」という。子連れで訪れた坂内里恵さん(39)は「奈良に来ると必ず寄る場所。目に留まった本を手に取って、自分の時間を過ごせるので気持ちがいい」と話した。
■古民家にほれ脱サラ
人見さんは近畿大生物理工学部を卒業後、出身の京都市にある民間企業で生命工学の研究職に就いていたが、「自分で方向性を決めて生きていきたい」と4年前に脱サラ。人間の生きる基本となる「衣食住」に関係のある仕事をしようと、建築の技術や考え方を学ぶ専門学校に2年間通った。
そんな折、パスタの味と店の雰囲気にほれ込んで、4年ほど前から毎月通っていた奈良市のレストランが閉店すると聞いた。「何とかしてこの空間を自分なりに残したい」と、思い切って借りたのが、「ミジンコブンコ」を開いたこの古民家だ。
当初は飲食店を開く気はなかったが、「人を迎え入れるあったかい空間」を生かそうと、借りてから約1年後の平成25年6月、「本とカレーの店」をコンセプトにオープン。「ミジンコブンコ」の名前は、もともと生物が好きだったことや「文庫」とのゴロがよかったのが主な理由で、「深い意味はない」という。
■人気は特製カレー
古民家と本の組み合わせが独特の安らぎを生み出す店は、きたまちの隠れ家的スポットとして口コミで評判が広まり、今は多くの常連客が集うようになった。
中でも人気なのが、約20種類のスパイスを混ぜ合わせた特製のカレー。「チキンカリィ」「キーマカリィ」、その日によって変わる「きまぐれカリィ」(いずれも850円)の3種類は、すべて人見さんの手作り。少し辛めのチキンカリィは、骨付きの鶏肉がスプーンできれいに取りほぐせるほど柔らかく、絶品だった。
「ひとりひとりが自分なりの時間を過ごしてもらえる場所でありたい」。人見さんがそう願う、安らぎとスパイスのきいた空間は、これからも癒やしを求めるまちの人々に愛され続けていくだろう。(浜川太一)
ミジンコブンコ=(奈良市東笹鉾町41)=近鉄奈良駅から北に徒歩約15分。店の西隣に2台分の駐車場も。日、月曜定休。営業は午前11時半~午後5時半、ラストオーダー午後5時。(☎0742・24・8231)。
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