【鹿角抄】矢田寺の「ミニ遍路道」を歩いて気付いたことは…
先日、大和郡山市の矢田寺境内に整備されている「ミニ遍路道」を歩いた。約3キロの道沿いには、四国88カ寺の本尊を模した石仏が並ぶ。広い四国を巡礼すると1200キロ、平均45日はかかるため、高齢者や病人も同じ御利益が得られるようにと、戦前に整備されたという。その後、荒廃していた道を「矢田寺へんろみち保存会」の前会長・山下正樹さん(71)が中心となって約10年かけて整備し、昨年5月に完成した。
遍路道には木々の隙間から暖かい陽光が差し、ウグイスのさえずりや虫の羽音が聞こえてくる。「この山坂も一歩から」などと赤筆で書かれた道標に励まされつつ、意外に険しい道のりを汗を拭き拭き歩いていくと、奈良盆地を一望できる山頂にたどり着いた。黄砂にかすんで遠くは見えないが、辺りを包む春の陽気に気分は爽快だった。
「ミニお遍路」を思い立つきっかけとなった写真展「四国八十八カ所巡礼の旅 遍路歩記展」(大和郡山市、3月2~6日)は、矢田寺のミニ遍路道完成を記念して開催された。写真は山下さんの友人で徳島市のグラフィックデザイナー・宮本光夫さん(71)が手がけ、四国の巡礼先で出会った「お遍路さん」や地元住民ら多くの笑顔が収められていた。
宮本さんは57歳で仕事を早期退職し、翌日からお遍路を開始。「もともと根暗な性格だった」というが、沿道の人々からのあいさつやもてなしに感動し、明るい気持ちになれたという。
そんな宮本さんだが、人々の優しさに幾度も触れるうち、「今度はどんな『お接待』が待っているのだろう」と期待する自分にも気づいたという。「今まで知らなかった自身の本性があぶり出されました」と照れながら笑い、「そこから始まる自問自答が、お遍路の一番の魅力かもしれません」と話した。
お遍路に限らず、一歩一歩を踏みしめる「歩く」という行為には、考え事や物思いに適した独特のリズムがあるのかもしれない。時間に追われる日々の中では見過ごしがちな自身の感情や人々の優しさにも、ときにふと、思いはせられるような「歩調」を持っていたいと、ミニお遍路を歩きながら思った。(浜川太一)
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