【奈良移住物語】小さな集落で発電、「できること・やりたいこと・求められること」の融合
吉野町殿川地区で「地域づくり×電気工事」業という「クラフトワーク」を営む吉村耕治さん(39)。仕事にしているのは、「自分ができること」「自分がやりたいこと」「社会から求められるもの」の3つが重なる部分だ。「自分ができることとしたいことだけでは『独りよがり』になってしまう。3つが合わさると、地域に受け入れられやすいし、自分にも無理がない」と話す。
■北京で見た環境問題
大阪市で生まれ、電気工事会社の2代目だった父の影響もあって県立商科大(現・県立大)2回生で第二種電気工事士の免許を取得。3回生終了後、語学を身につけようと留学した中国・北京にある外国語大学で、砂漠化や大気汚染などの環境問題に直面、解決に取り組もうと決意した。
帰国後は姫路工業大(現・兵庫県立大)の大学院環境人間学研究科で学び、兵庫県市川町の観光協会の嘱託職員を経て、平成24年に吉野町の地域おこし協力隊員に応募。3年間、観光振興を行う一般社団法人吉野ビジターズビューローで働いた。
■集落の水車で発電
その時に出会ったのが、殿川地区の人々だった。吉野町の東端部標高約500メートルの高地に位置する地区の集落は、10世帯にも満たない。集落内の水路に設置された水車での小水力発電に、電気工事ができる吉村さんがかかわるようになったことなどから、別荘として使われていた建物を借りて住むように。隊員の任期を終えた27年4月、ドイツ語で発電所を意味する「クラフトワーク」を屋号に、「地域づくり×電気工事」業を始めた。「ここで暮らし、中山間地域のためにやっていきたいと思った。『地域に元気と電気を』がテーマでした」と振り返る。
■小さな市場で「複業」
できること「CAN」としたいこと「WANT」、必要とされること「NEEDS」が重なることを仕事にし、市場が小さい地域で生活するために「複業」を選択した。「月20万円必要なら、4つの違う仕事で5万円ずつ稼ぐやり方でいこうと思ったんです」。
現在は、妻と1匹のネコとの生活。収入の内訳は、行政計画の策定支援などの地域づくりが半分、電気工事が4分の1、大学の非常勤講師として経営組織論を教える講師料が15%-という。「ありがたいことに、仕事は途切れずにいただいています。これまでいろんな人と出会ってつながりができ、仕事を紹介してもらっている。人の縁です」と話す。
地域プランナー・地域コーディネータの資格を持つ4人で、有限責任事業組合「山都物語」も設立。自身の経験も生かし、地域おこし協力隊の研修会も開催している。
「任期終了後、そのまま定着する人もいれば、離れていく人もいるが、隊員同士の横のつながりをつくり、互いの近況報告や情報交換をすることにより、定着しやすくなるのではないかと思う」。地域のために、地域で活動する人を支えるために、実践する日々が続く。(山本岳夫)
【関連記事】
【奈良移住物語】子供らが帰りたいと思う故郷に 宇陀の旧郵便局でレストラン
【奈良移住物語】森と人の優しさが糧 黒滝村で17年「理想の暮らし」
【奈良移住物語】築140年の古民家でカフェ 「自然の中で子育てを」
(関西のニュースは産経WEST http://www.sankei.com/west/west.html)