【まちの近代化遺産】112年の歴史刻む学び舎 桜井高校講堂
近鉄桜井駅の北、三輪山の豊かな自然に囲まれて立つ県立桜井高校。現代的な校舎の隣に、どっしりとした木造平屋建て、入母屋造の講堂がある。前身の県立桜井高等女学校が開校した明治37(1904)年に建てられた、現存する唯一の旧校舎だ。
瓦ぶきの屋根にある妻飾りは、火除けのための「懸魚」。寺院の庫裏建築にも通じるデザインだ。建物の基礎はレンガ造りで、外壁に使われている杉の下見板張りが112年間という歴史を感じさせる。換気口には花崗岩が用いられており、同校の森二朗教諭は「ストーブなど、空調設備の排気口として使われていたのでは」と話す。
内観は柱が2列で立ち並び、白に統一された内壁と、板張りの天井、床のコントラストが美しい。天井は和風建築では代表的な棹縁天井だが、中心部に正方形の格子を組むという手の込んだ造り。昭和初期まではシャンデリアも設置されていたという。
両側面にある窓のサッシは木製、カギは金色のネジ締まり式。外観は純和風、内部に風の意匠が凝らされた造りは、まさに和洋折衷の近代建築といえるだろう。
一時は解体する案もあったが、「講堂は桜井高校の象徴。何とか残したい」という卒業生や学校関係者らの尽力で存続したという。平成16年の創立100周年には、記念事業として出入り口や車寄せを増築、靴箱も設置した。当時の校長、土家利之さん(68)は「講堂には100年間学んだ人たちの思いが詰まっている。今後は生涯学習の場として、地域の人たちにも使ってほしい」と話す。
現在は学年集会や卓球部の練習場として使われているほか、地域の人々が展示会や講演会などにも利用。ステージ横には、創立20周年の年に購入されたスタインウェイのグランドピアノがあり、平成24年に修復後は、ジュネーヴ国際音楽コンクール(ピアノ部門)で、日本人初優勝を果たしたピアニスト、萩原麻未さんが演奏を披露した。
重厚で落ち着いた雰囲気の講堂にいると、100年前にタイムスリップしたような気分になる。谷垣康校長も「ピアノと講堂は100年前の風景を蘇らせてくれる」と、2つは学校のシンボル的存在。同校2年で生徒会副会長の中山愛海さん(17)も「講堂に入ると何だか安心する。歩くと『ミシミシ』音が鳴るのもいい感じ。ずっとあのまま残ってほしい」と話す。
「身体で学校の歴史を感じられる唯一の存在が講堂。これからも大切に、ずっと後世に伝えていきたい」と谷垣校長。112年の歴史を伝える講堂は、これからも生徒や地域の人々とともに歴史を刻み続けるだろう。
(神田啓晴)
■ひとくちメモ 県立桜井高校は近鉄・JR桜井駅から約800メートル。県内唯一の「書芸コース」が普通科に設置されており、毎年12月には卒業書作展を橿原文化会館で開催。講堂内には、県出身の書家で筑波大学名誉教授を務めた故今井凌雪氏の筆による同校の校訓「普く 絶えず 正しく」も掲げられている。
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