【私の働き方】主婦から県内トップ企業の経営者に 前田祥子さん
主婦から一転、不動産仲介業の県内トップ企業「山晃住宅ホールディングス(HD)」(王寺町)の代表取締役会長兼社長となった前田祥子さん。双子の息子を育てる中、家計を支えるために始めた不動産業を拡大。幾度の壁にも常に〝相手の立場で考える〟ことを基本に、さまざまな工夫をして乗り越えてきた。「役に立ってると思うとうれしくて」と、底抜けに明るい笑顔を見せた。
■素人の〝主婦〟からスタート
両親から「早く嫁にいけ」と言われて育ち、「男性が仕事をして、女性はそれを手伝うものだ」と思っていた。
京都女子短大家政科を卒業後、22歳で見合い結婚。印刷業の夫の仕事を手伝いながら、双子の息子の育児に励んだ。
夫はゴルフ練習場の経営に乗り出したが、1年ほどたつと仲間とのゴルフで家を空けるように。幼い息子を連れ、夫の代わりにボール洗いや打席の整備、住み込みの従業員らの食事の用意…と、日々追われた。
だが、経営不振でゴルフ練習場は廃業に追い込まれ、多額の借金を抱えることに。当時の不動産ブームに乗り昭和47年、香芝市内で夫と自宅兼事務所の不動産業を始めた。
ところが1年もたつと、夫はまた留守がちに。自分がやるしかない中、当時息子たちはまだ小学2年生で、帰宅時間も早かった。そこで事務員に主婦を雇い、電話応対の合間に米とぎなど食事の下準備を依頼。「帰ってすぐにご飯も作れた。何でも工夫です」と振り返る。
■どんなときも根気よく
来客もほとんどない日々が続いていたある日。「娘のために大阪で賃貸住居を探している」という高齢夫婦が通りかかりに来店した。
県外のうえ、当時少なかった一戸建てか分譲の賃貸、という難しい注文。まだ〝素人〟で方法もわからなかったが、「探して連絡します」と答えた。大阪に電話帳を買いに行き不動産業者に片っ端から電話すると、2週間ほどしてようやく3つの物件が見つかった。案内すると気に入られ、初の契約にこぎつけた。
当時はゴルフ練習場の負債に加え、夫は最低限の生活費しか渡してくれなかったため、「正月に餅も買えず、子供服は端切れを買って手作りしていた」というギリギリの生活。初の仲介手数料で、子供たちにテレビを買うことにした。「初めての報酬がもらえたことだけでなく、お客さんに喜んでもらえたことがうれしかった。このとき火が付いたんです」と振り返る。
■人の役に立てるように
それからは、空き家を探してはオーナーに賃貸仲介を申し出た。「すぐに満室にしますので、全部任せてください」。全く話を聞いてくれないオーナーに、毎日通って頭を下げた。
2週間ほど通うと「わかった」と任せてくれることに。「必ず満室にしないと」と、空室情報に目をとめてもらう方法を考えたが、広告費はかけられない。夜に子供が寝ると、自ら電柱などにビラを貼りに出かけ、3戸を満室にした。
戸を閉められ相手にされなかったり、水をかけられたことも。つても情報網も持たない個人商店の女性の物件探しは、根気よく通って頼み続けるしかなかった。「オーナーさんも『できるかわからんけど、1回やらしたろう』と思ってくれたんでしょう」と話す。
数十戸を受け持つようになると、さすがに貼り紙だけではおぼつかなくなった。方法を考える中、大阪の駅で売られていた賃貸情報専門紙が目に留まった。圧倒的に需要の大きい大阪から客を呼び込むには、「奈良は遠い」というイメージを変える必要がある。大阪からのアクセス情報などを目立つように工夫し、広告を出すと大きな反響があり、次々と部屋が埋まった。
そのうち「よく紹介する」と評判になり、大手住宅メーカーからも依頼が来るように。借金も完済し、夫と相談して昭和56年にはJR王寺駅前に本店を構えた。しかし、夫は最初の3日間は出勤したがまた店に寄りつかなくなり、ついに離婚。2人の息子を抱え、女手一つでの経営になった。
がむしゃらに働くうち事業は軌道に乗り、3年後に法人化。県内に次々と新店舗を展開し、平成16年には静岡にも進出して本社を置いた。1人で始めた会社は現在、社員約210人を抱え、賃貸仲介で県内トップ企業となった。
「最初は負債を抱えてお金のために必死だったけど、『人のためになりたい』という思いに変わっていった」という前田さん。今後もその思いを軸に、情熱を傾けていくつもりだ。(山﨑成葉)
【プロフィル】前田祥子(まえだ・しょうこ)さん 香芝市出身。京都女子短大家政科卒業後に結婚。双子の息子を育てる傍ら、昭和47年に不動産業を自宅兼事務所で始めた。賃貸仲介業を開拓し、代表取締役社長に就任、不動産仲介業で県内トップ企業に成長。現在は山晃住宅ホールディングスの代表取締役会長兼社長。
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