【あのまちこんな店】素材生かした季節の生菓子堪能 ならまちの「樫舎」
元興寺(奈良市)の周辺に広がる「ならまち」には、古い町家を生かした魅力的な店が多い。そんな中、「萬御菓子誂處『樫舎(かしや)』」は、素材を大切にした季節の生菓子が堪能できる人気店だ。昨秋には注文販売や喫茶に加え、目の前で作られた菓子が出されるカウンター席も登場した。菓子作りや奈良の文化について主人と話しながら1品1品を味わうのもいい。
■〝旬〟楽しむカウンター席
猿沢池から南にのびる通りを歩き、ならまち大通りに出る手前、向かって左側にのれんのかかるこぢんまりした町家が「樫舎」だ。中に入ると、2階の喫茶(生菓子と飲み物、税別800円など)への階段上に東大寺二月堂修二会(お水取り)で奉納したというお松明の竹が飾られているのが目を引く。奥にはカウンター席(菓子、飲み物各4~3種のコース、税別2千円)が広がる。
主人の喜多誠一郎さん(42)が用意してくれたのは、「みよしの」という葛焼き。奈良漆器にのせられた桜色の姿が春を感じさせる。吉野本葛と備中白小豆のこしあんが使ってあり、ほんのりとした甘味がなんともいい。青森の山の芋などを使った練り切りの「なたねきんとん」もおいしい。
「賞味期限1分。置かないで食べてください」。そう言って手渡されたのは小さな最中。口に入れると皮は驚くほどパリパリで、小豆の食感もいい。食べた後は、赤膚焼の茶わんに入れられた抹茶も味わい深い。
■産地に足を運ぶ
喜多さんは徳島市内の和菓子店の長男に生まれ、子供の頃から和菓子作りを手伝っていた。全国各地の和菓子を食べ歩き、大和郡山市内の和菓子店で修業した後、「樫舎」を屋号に独立。ならまちには8年ほど前に店を構えた。
素材の農作物は産地まで足を運んで、良しあしを見極める。こしあんは仕入れた小豆を腹が割れないように炊いた後、手で皮と実をこし分け、水でさらし、砂糖を入れて炊きあげる。
「自分のこだわりを捨てて素材に合わせるとおいしくなる。素材の邪魔をせず、けがさないようにするのが私たちの仕事」と、喜多さんは言葉に力を込める。
■今年より来年…
和菓子は春日大社や薬師寺、東大寺、元興寺などの有名社寺にも納めてきた。「最初は『我が我が』といった感じだったが、手で作っているうちにそれはおかしいと気づき、精神性を求めるようきたえてもらった」という。
さらに元春日大社権宮司の岡本彰夫さんの監修で、かつて作られていた和菓子の復刻にも取り組んできた。伊勢参りの人たちが通った街道筋で作られたという「女夫饅頭」(桜井市のやまとびとのこころ店で販売)などがそうだ。
「『菓子の虫』のような男。農家を育てるためにいい素材を高く買う姿勢が見事」と、喜多さんの仕事を見てきた岡本さんは語る。
「産地からお預かりしたものをアルファ化(糊化)しているだけ」。謙虚で、「去年より今年、今年より来年、さらにおいしい菓子を作りたい」と常に究極をめざす姿勢には、頭がさがるばかりだ。(岩口利一)
樫舎(奈良市中院町22の3)=近鉄奈良駅から南東へ徒歩約15分。無休。午前9時~午後6時。注文販売のほか、喫茶やカウンター席(予約のみ)も。(☎0742・22・8899)。
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