奈良医大に四肢外傷センター発足 最先端技術のお家芸を発展へ
半世紀前、切断指の再接着に世界で初めて成功した県立医大(橿原市)に今年、整形外科分野の研究・治療の専門機関「玉井進記念・四肢外傷センター」が発足した。顕微鏡を使って行う超微小手術「マイクロサージャリー」は多岐に渡る領域で応用されており、奈良発の〝お家芸〟として継承されている。
■困難な小児患者の治療も
センターは昭和40年、事故で完全切断された男性=当時(25)=の親指の再接着に世界で初めて成功した同大の玉井進名誉教授(81)の名を冠し、同大付属病院整形外科の一角に設置。現在、専従医師は准教授1人で、同科の医師らと連携し、事故などで切断された四肢の治療など、緊急度の高い専門治療を行っている。
特に全身麻酔が必要な子供の外傷患者については、〝断らない医療〟を目指し、土日の輪番病院で一旦受け入れを拒否された治療困難な小児患者を受け入れる体制を用意。また、「機能再建」をテーマに約30人の医師が研究に取り組んでおり、難治性の複合外傷に再生医学的アプローチを加えた研究などを進めている。
■たった2本の糸
玉井氏が切断指の再接着に初成功した当時。四肢切断には、切断面を丸める「断端形成術」で対応するしかなく、生活上の不便などから、治療法の確立が切望されていた。
マイクロサージャリーの手術では、切断面の直径約1ミリの血管をつなぐため、極細の糸や精緻な顕微鏡が必須。玉井氏は実験や研究を重ね、米国から入手したたった2本の直径0・04ミリの糸で手術を試み、見事成功させた。
現在も奈良西部病院内にある「奈良手の外科研究所」(奈良市)で外来診療や手術をこなす玉井氏。センター長に就任した田中康仁・県立医大整形外科教授(56)は「成功の要因には『やろう』という強い意思も大きかったのでは」と話す。
■新しい学問領域に
マイクロサージャリーはその後、さまざまな領域の機能再建に応用されてきた。事故で欠損した顔面の再形成や、切断された指の移植手術…。多くの患者の「QOL(生活の質)」向上に役立てられ、田中センター長は「新しい学問領域を作った」と評する。
県立医大付属病院には各国の医師が技術を学ぶため見学に訪れ、玉井氏らの指導や助言を受け、各国で伝承。こうした功績が評価され玉井氏は2010(平成22)年、米・シカゴの国際外科歴史博物館の「日本外科殿堂」入りを果たした。
ただ、医療機器が飛躍的に進歩した昨今でも、指1本をつなぐにはベテラン医師でも1時間半~2時間がかりという難しい技術であることに変わりはなく、後進の育成は今も課題だ。田中センター長は「奈良発の〝お家芸〟を継承、発展させ、患者のQOL改善や研修医の外科技術の習得に努めたい」としている。
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