【奈良移住物語】子供らが帰りたいと思う故郷に 宇陀の旧郵便局でレストラン
のどかな田園風景が広がる宇陀市榛原比布に、昭和初期に建てられたレトロな旧伊那佐郵便局(登録有形文化財)が残る。改修された建物内は、「日替わりシェフ」によるユニークなレストラン。経営するのは大和郡山市から10年前に移った松田麻由子さん(34)。住民をはじめ各地から集うシェフ、学生らとも交流の輪が広がっている。(岩口利一)
■子育て環境を求めて
「田舎でのびのびと子育てをしたいと思った」。自然環境に恵まれた宇陀市に平成18年に移った理由を松田さんはそう語る。
当時は幼い2人を抱え、夫の職場がある大和郡山市内への通勤に支障がない土地を探したところ、宇陀市内で農家だった築約70年の空き家を気に入り購入。「家は広いし庭や裏山もあり、ハイツに住んでいたときと違って子供が自由に遊べる。井戸水と上水があり、子供がどろどろになって帰ってきても平気で良かった」と話す。
そんな家や自然環境はもちろん、住民らの結びつきの強さからも、この地に愛着を抱くようになった。
■店持ちたい人が挑戦
旧伊那佐郵便局は白い板張りの壁が特徴的な木造2階建てで、約80年前の洋風建築。欄間や鬼瓦に郵便記号がデザインされ、現在は松田さんが局長のまちづくり団体「伊那佐郵人」の看板が掲げられている。中の事務室だったというスペースがレストランだ。
この建物との出合いは移住後。友人に教えられ訪れたところ、「すてきな建物だったが、中はボロボロだった」。ツイッターでつぶやくと興味を抱く人の輪が広がり、保存活動に。国の空き家再生推進事業として改修できると決まったと同時に購入し、25年にはレストランをオープンさせた。翌年には、登録有形文化財にもなった。
「郵便局の保存が先で、活用のことは動きながら考えた」という松田さん。レストランにしたのは「地域の拠点にするために有効な〝食〟にしようと思った」からだという。
「日替わりシェフ」は常時募集し更新。将来店を持ちたい人や自慢の料理を披露したい人らがチャレンジする場となっており、料理は和洋を問わない。これまでに体験したシェフは30人ほどになり、うち2人は実際に店を持ったという。
■地域と若者つなぐ
昭和初期、旧郵便局のある通りは地域の中心で、多くの商店も並んでいたというが、今はその面影もほとんど残っていない。そんな地で「伊那佐郵人」はにぎわいを取り戻そうとしている。
松田さんは地域と若者らをつなごうと、NPO法人「ならゆうし」や地域活性化団体「ウダカツ」のメンバーとしても活動。「建物保存というハード面だけでなく、地域社会が持続できるようにしたい」と、インターンシップをコーディネイトするなどしている。
そんな原動力は何か。「自分の子供たちが宇陀を故郷として帰ってきたいと思えるような環境を残したい。それが私のゴール」。
レストランについての問い合わせは、伊那佐郵人(☎0745・88・9064)。
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