【鹿角抄】五條市の危険な盛り土の山 法規制〝空白〟を埋める必要あり
五條市田殿町などの山間部で市道に隣接する残土処分場で、土砂崩落の危険性が問題化している。
地元住民は7月、土砂が崩落する恐れがあるとして処分場を運営する土木建設会社「五條開発」と市に土砂の撤去などを求める仮処分を奈良地裁五條支部に申し立てた。
現場を訪ねると、市道脇にはうずたかく土砂が積まれていた。申立書によると、盛土は高さ約20メートル、勾配45度以上。これまで幾度も土砂が市道などに流出、通行困難になったという。現場を案内してくれた申立人の一人の男性(63)は「雨で土砂が流れたときは、ひざまで浸かった。雨の日は怖くて、みんな通らないようにしている」と話した。ほかの住民男性(48)も「市道を通り終えたら、『今日は何事もなく良かったな』と仕事に行っている」と話した。
なぜこんな状態になってしまったのか。背景には、残土処分場の土地に法規制がないことがある。
事態を受けて市は6月、「五條市土砂等の埋立て等の規制に関する条例」を制定した。施行規則では法面の傾斜を30度以下にすることや、最大高さを15メートル以下にすることなどが盛り込まれる予定だが、施行されるのは10月。施行前から実施している事業者には3カ月の猶予期間を経て適用されるが、遡及して適用はされない。市は7月、同社に警告書を送付したが、「市道については法的な違反行為はない」とする。
約2年前、大阪府豊能町でも府道近くの残土処分場で大規模な土砂崩れが発生。現場の一部は砂防指定地に指定されていたため、府は業者を条例違反で刑事告発し、関係者は逮捕された。大阪府は事件を受け、「土砂の埋立てを規制する条例(通称・残土条例)」を制定。府砂防指定地管理条例の罰則も強化した。
残土条例は近畿圏では大阪、京都、兵庫の3府県で制定されているが、奈良県は法規制の〝空白地帯〟となっている。住民の代理人弁護士は、「規制が厳しい大阪などから、奈良に土砂が運ばれている」と指摘。住民男性も「弱いところに土が回ってくる。条例ができて五條で解決しても、他の自治体が同じように問題を抱える」と訴える。
奈良県でも残土条例の早急な検討が望まれるが、普遍的な課題は残る。五條の事例を、根本的な解決策を考える契機としたい。(山﨑成葉)
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