【私の働き方】子育て女性の居場所に 美容室・カフェ経営 松下千晶さん
大和郡山市内で美容室を経営するかたわら、母親と子供のためのカフェ「ちびっこ共和国ひなたカフェ」を今年6月にオープンした美容師、松下千晶さん(34)。3人の子供を育てる中で感じた「働きにくさ」「育てにくさ」を改善する力になろうと、奮闘している。
■働く原動力は子供
18歳で「手に職をつけたい」と美容師の道に進んだ。だが、「あこがれて美容師になったわけではなく、たくさんある『仕事』のうちの選択肢に過ぎなかった」と振り返る。
〝カットデビュー〟を果たすまで、下積み期間は6年間。「厳しかったが、あこがれがなかった分、ギャップもなくてよかった」と笑う。
21歳で結婚、22歳で長女を出産した。若いうちでの結婚、出産に「食べていけるか、将来への不安があった」ため、専業主婦という選択肢はなかった。「ブランクがあると美容師の腕も落ちる」と、仕事から離れようとは考えなかった。
勤めていた美容室に産休の制度はなく、出産直後でも「日曜日は出勤して」といわれ、働く店を変えた経験もある。ふと、「子供がいなければ…」との思いが頭をよぎることもあった。だが、「子供を言い訳に仕事ができないというのは、違う」と必死で働いた。
29歳で独立し、美容室「チアコア ヘアーアトリエ」を立ち上げた。独立の一番の理由は、自分の仕事が原因で、ぜんそく持ちの子供に無理をさせ、入院させてしまったこと。小学校に入学した子供を「鍵っ子」にはさせたくなかったからだった。
働く原動力は、今も「子供」。学校の行事や授業参観などには必ず参加し、子供の下校時間には仕事が切り上げられるように工夫している。
■思いが詰まったカフェ
美容室の経営も軌道に乗り、「新たな挑戦をしたいと」今年、母親と子供のためのカフェを作ろうと思い立った。6月6日、「ちびっこ共和国 ひなたカフェ」をオープンさせた。店には、松下さんの経験から生まれたアイデアが詰まっている。
小さな子供を持つ母親が子連れで外出した際、おむつ交換や授乳スペースは必須。また、子供がおもちゃで遊べる「キッズスペース」も設置し、のびのびと遊べるようにした。母親にゆっくり過ごしてもらうため、カフェは時間無制限の食べ放題だ。
松下さん自身、子供が幼かったころはなかなか外食もできなかった。「いつも『うるさい』と思われているんじゃないかと気が気でなかった」。そのため、同店は接客するスタッフも訪れる客もどちらも母親。「互いに気持ちのわかるカフェにしたい」と考えたからだ。子育て中の母親が一息つける場を提供するとともに、雇用で子供の教育費も稼げる場づくりをめざした。「働きたくても働くことができないママの受け皿になれれば」と話す。
■ママ美容師のサロンを
「実は、カフェとしてのもうけはほとんどないんです」と漏らす松下さん。時間無制限で大人2500円の「食べ放題」なので、客の回転率は悪い。だが、値上げは考えていないという。
「国や行政は『子供を産んで』『出生率を上げよう』というけど、具体的に何かをしてくれるわけではない。なら、私たちのような経験をした人が行動を起こさなければならない」と語る。いずれ、県内にカフェの2号店をオープンしたいと考えている。
夢は〝母親の美容師〟が働けるサロンを出店すること。美容師免許を所持する子育て世代の女性は多いといい、「美容室でも子育て支援と就労支援が行えれば。何年先になるかはわからないけど、新しい形として必要なサロンだと思うんです」。子供のため、母はこれからも、たくましく夢を追う。(石橋明日佳)
松下千晶(まつした・ちあき)さん 昭和57年、大和郡山市生まれ。夫と長女(11)、次女(8)、三女(7)の5人暮らし。美容室「チアコア ヘアーアトリエ」と、カフェ「ちびっこ共和国ひなたカフェ」を経営。カフェはランチタイム(午前11時~午後3時)大人2500円、カフェタイム(午後1時~午後3時)大人1800円。問い合わせは同カフェ(☎080・9464・4709)。
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