【鹿角抄】奈良少年刑務所建物を重要文化財に 町おこしに生かせるか
奈良市般若寺町にある奈良少年刑務所の重要文化財指定を求める要望書が、周辺自治会から提出された。刑務所という施設に住民が好意的な態度を示すのは珍しいが、同刑務所は築100年のれんが造りの建物で、観光スポットとしても人気。要望書が決議された自治会の総会では「刑務所を町興しに活用するためにも、文化財として保存してほしい」との意見が多数を占めたという。
保存の機運が高まったきっかけは、老朽化で建て替えの話が浮上したことだ。同刑務所は、日本が近代的な法治国家へと成長を遂げたことを示すための象徴として明治41年、政府が建設した5大監獄のひとつ。モダンなロマネスク様式で、一見とても刑務所には見えない。
そんな外観が人気を呼ぶ一方、職員からは「雨漏りがひどい」「設備が古くて使いにくい」「夏は暑く、冬は寒い」などの声が上がっている。同刑務所は5大監獄のうち唯一、建設当時の姿を残しており、だからこそ価値があるとされるが、施設内の多くの場所には冷暖房すらない。
住民らによると、同刑務所は平成26年には移転候補地の調査報告書などを作成。これを受け、同年10月には市民団体「近代の名建築 奈良少年刑務所を宝に思う会」が発足。同刑務所を設計した建築家、山下啓次郎氏の孫でジャズピアニストの山下洋輔氏が会長に就任した。会では勉強会などの活動を続けている。
地域では町興しの観光資源として期待されているが、刑務所である以上「誰でも気軽に訪れる」ことはできない。施設内を見られるのは矯正展などの限られた機会のみだ。
文化的価値を町興しにも生かし、刑務所としての機能を確保する-。難しい課題はどのように解決できるだろうか。地域一体で生み出される知恵に期待したい。(桑島浩任)
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