【まちの近代化遺産】若草山を借景に、ピースフル空間 名勝・依水園
細い道を抜けると視界が開け、のびやかな春の景観が広がった。池と木々の向こうに若草山や春日山、東大寺南大門。それらを借景とした国の名勝・依水園(奈良市水門町)の後園だ。
木立のなかを歩いていくと少しずつ池や借景の姿が変わっていき、静かな山中を歩いているよう。池には水車小屋もある。とても奈良市中心部の県庁近くとは思えない。
依水園は広さ約1万1千平方メートルで、江戸時代に造られた前園と明治時代の後園から成る。後園は茶の湯や詩歌をたしなんだ地元の実業家、関藤次郎が築き、前園を含め依水園と名づけた。昭和14年には神戸の実業家、中村準策が取得、同33年から公開されている。
「音もここの魅力。森では鳥がさえずり、いくつかある滝もそれぞれ音が違うんです」。案内してくれた依水園・寧楽美術館の学芸員、濱田美和子さんは話す。もちろん、季節によって表情が移り変わるのも魅力だ。
後園にある氷心亭は主座敷に当たる茅葺き屋根の茶室。ここでは抹茶と和菓子(千円)をいただくことができる。13畳の広間に座るとガラス窓越しに池が広がり、その向こうに春日大社のある御蓋山が望めるぜいたくな景色だ。
「池に舟を浮かべて観月を楽しんだということ。阿倍仲麻呂の歌にあるように御蓋山に月が昇ります」と濱田さん。なるほど、ここで秋に月見ができたなら優雅な気分に浸れるだろう。
裏千家第12世又玅斎が指導したという茶室はいろいろと凝っている。天井は裏千家寒雲亭を模して平天井と掛込み天井、舟底天井が組み合わされ、天井板などには新薬師寺(同市高畑町)の古材を使用。床の間は室内の畳と同じ高さの踏込床で、その左側の付書院は屋久杉の欄間に桐紋の透かしが彫られている。隣の池に面した5畳半の小間は静寂に包まれた落ち着く空間で、若草山も近くに見える。
後園にはほかに別の茶室の寄付(待合)や柳生一族の菩提寺、芳徳寺(同市柳生下町)から移されたという柳生堂なども。
依水園は米国の日本庭園専門誌による日本庭園ランキングで2014年は6位、2015年は8位に。確かに、庭にいると次々と外国人が訪れる。
「外国の方からはよく『ピースフル』といわれます」と濱田さん。そんな言葉通り、山を借景に明るく開けたこの庭は穏やかな雰囲気に満ちている。(岩口利一)
■ひとくちメモ 依水園・寧楽美術館の休園日は火曜日と年末年始だが、4、5、10、11月は無休。開園時間は午前9時半~午後4時半(4月1日~6月1日は午後5時)。入園料は寧楽美術館を含め一般900円、大学生810円、中学・高校生500円、小学生300円。問い合わせは同美術館(☎0742・25・0781)。
ホームページはhttp://www.isuien.or.jp/
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